今橋製作所のユニークな社風から学ぶ
中小企業が生き延びるヒント

株式会社 今橋製作所
代表取締役社長
今橋 正守 氏

Factory Innovation Week 事務局 RX Japan
2023年9月14日

10月に名古屋で開催される「[名古屋]Factory Innovation Week2023」。今回同展で「中小企業”だから”始めるカーボンニュートラル」と題して講演をされる、株式会社 今橋製作所 代表取締役社長 今橋 正守 氏 のインタビューをお届けします。インタビューはFactory Innovation Week[秋]2023にて同内容の講演後に行われました。講演を終えての感想や、今橋製作所の独特な社風について、新しいことを始めるためのマインドセット術など、中小企業が今後生き残っていくためのヒントがつまった興味深いお話をたくさんお聞きしました。

今橋製作所ってどんな会社?

ー まず御社のことについてお聞きしたいのですが、そもそもDXやGXを積極的に仕掛けたり、あるいはそれに相応しい人材を発掘したり、そのようにユニークな事業展開をされるようになったきっかけについてお聞きしてもいいですか。

今橋  今橋製作所は僕のお祖父さんが創業者で、親父が2代目で、僕が3代目の代表になります。
ある意味使命感のように入社しましたが、血縁関係がなかったら絶対にこの会社には入らなかったと思います。
僕が入社した時はお祖父さんの代で、7人程の会社でした。今まで自分が高専や大学で学んできたことはなんだったんだと思うくらい小さくて汚い会社だったんです。そこから始めて、ある程度事業を軌道にのせ、収益も改善したタイミングで、優秀な人材の確保に力を注ぐようになりました。

ー 具体的にはどのように人材確保をされたのでしょうか。

今橋  私は高専を卒業して大学に編入したんですが、客員教授という形で高専で教えてもいたので、まずは高専の人材をターゲットにしました。でも高専の先生からすると、大手、準大手の受け皿としての中小企業だったので、当初は思うような人材が集まりませんでした。そんな中、当社から資金提供する形で、ある先生と共同研究を始めたんです。そうすると、そこに集まってくる生徒や先生と会話ができるようになって、そんな中、たまたま情報処理に長けた優秀な子がいたんですね。そしてある先生から「この生徒であれば、中小企業に向いている」と紹介を受けたのがきっかけで入社してくれることになったんです。その後もその先生からの紹介で第2新卒が3名入社し、さらに1名、また今月ももう1名入ってくる予定です。

ー DXやGX、カーボンニュートラルに取り組まれるきっかけは何だったのしょうか。

今橋  ちょうど3人目の子が入社してきたくらいだったと思うんですが、若い新入社員の子たちがどうしても現場系のものづくりに向いていなくて、彼らが活躍できるフィールドはどこかと考えた時、GXやカーボンニュートラルの分野が思い当たったんですね。つまり僕がそういった事業をやりたくてふさわしい人材を採用したのではなく、こういう人が今いて、その人たちが稼げるようにするにはどうすればいいか?という発想から始まっていることなんです。

ー 人材が先で、彼らが活躍できるフィールドはどこかを探索していった結果なのですね。

今橋  もちろんものづくりが得意な子が来てくれたら一番楽ですよ。今までのリソースが使えますから。でもどう考えても向いてない、となったらそこで稼げる仕組みをつくればいいだけなんですよ。
最初の1~2年は低空飛行でも、「こうやったらできるんじゃない?」「ああやったらできるんじゃない?」と試行錯誤しながらやっていけばいいんです。責任は僕が取ればいいので。そうすると社員ものびのびできてアイデアも出やすくなりますよね。帰宅して一息ついてから「会社に行きたくない」ってなってしまったら、インプットができなくなってしまいますよね。インプットができる社風にすれば、いろんな子が活きてくるのかなって思っています。だからポイントは、人材ありきで事業を始めたというところですかね。

ー いろんなことを試されたのですね。

今橋  そうなんですよ。あとはただやるのではなく、ニーズが世の中にあるというのが大前提ですね。
カーボンニュートラルとは別に新しいサービスも始めたんですよ。強い生産者、強いコンテンツ、あるいは農作物や伝統工芸でも強いものをつくる人たちが、その価値をわかる人にうまく届けられるようサポートするサービスなんですが、それも人材がいるからできることなんです。

ー 原則や目的があって、そこに辿り着くまでの方法が柔軟に用意されていると。

今橋  うちの娘は中学2年なんですけど、YouTuberの話をしたら、「え?やるの?いつからいつから?」って食いついてきました。「携わりたいの?」って聞いたら「つくり方が知りたいの」って言っていましたね。それがあるだけで食いつき方が違うんですよ。だから若い人材が欲しければ、今から10代に向けたアピールをしておかないとチャンスは来ないなと思います。

「やる」と決めて、あとはやるだけ

ー 今までのお話をお聞きしていて、今橋さんは非常にロジカルで、いろんなギャップを見つけるのが上手でいらっしゃるなと感じました。たとえば大手メーカーが考えているscope3でのCO2の排出量の計測と、それから中小企業さんが抱えてらっしゃる課題「部品ごとのCO2排出量の計測ができない」という話なども大きなギャップだと思いますが、このようなギャップに目を配れる背景にはどういった考え方やマインドセットがあるのでしょうか。

今橋  実はよくわからないんですけど、情報発信をしてるといろんな人が食いついてきて、お声がかかるんです。だから自分から勉強することはほぼなくて、僕はただ会社にいるだけ。動画などの情報を無作為に出しているので、興味のある人がうちを見つけて向こうからやってきてくれるんです。それに対してあまり深く考えずにやってみるんですね。「いやだったらやめりゃいいじゃん。」の良い意味の気軽さで。
お声がけくださる人たちも企画側の人が多く、ファブレスの方が多数を占めることもあり、我々を頼ってくることが多いです。だからそういう声がかかったときに、まずはやってみようっていうのがあって。今までやりたいことはいっぱいあったんですが、ロジカルに取り組める社員が少なかったため、制限してきたんです。でも新しい人材が入ってきてくれたから、今どんどんできています。やはり情報発信さえしっかりして、あまり深く考えずにやってみるという行動力さえあれば、チャンスはいくらでもあると思うんです。

ー まず「やる」と決めるということですね。その道筋からいろいろと見えてくるものがあるというか。

今橋  それが高専マインドなんですよね。理詰めで動かずまずやってみる。 A案・B案・C案の検証までしっかりした上でやってみようとかではなくて、AがダメだったらBでいいじゃんっていう。
大学の先生でよく知っている先生がいるんですけど、レポートの出来具合やスピードを見ると一般入試の子より高専の子の方が断然優秀だというんです。それは何でなんだろうね。

ー 高専は、カリキュラムの進み具合も普通の高校よりも圧倒的に速いと聞いたことがあります。

今橋  そういった意味で、僕がやろうとしていることは、高専の子だったら免疫があるんですよね。

Factory Innovation Week2023秋での展示会、講演を終えて

ー 今回Factory Innovation Week2023秋でのご講演を終えての率直な感想をお聞かせください。

今橋 今回の講演は、カーボンニュートラルという新しめなテーマだったんですが、思ったよりみなさん気にされているんだなという印象を受けました。結局カーボンニュートラルは、将来の中期的な課題をどうやって突き詰めていくかということなので、日頃の営業・企業活動とは少し違う側面じゃないですか。それにもかかわらず考えていらっしゃる方がたくさんいらしたことにまず驚きました。
ただ今回は「中小企業のカーボンニュートラル」というテーマを掲げていましたが、「中小企業」というよりは、行政の方たちが興味を持ってくれているのかなと感じました。あとは大手企業で「カーボンニュートラルを推進しなきゃいけないんだけど何からやっていいかわからない」という担当者の方もいらっしゃいましたね。
どちらかというと中小企業の経営者の方は、まだこれからという気がしています。我々としてもこういったパッケージングの初期段階は行政がターゲットになるのでそこは合致しているのかなと思いました。

名古屋での講演について

ー 東海地域・中部地域といえば、自動車産業と重機械工業が強いですが、特に名古屋の講演ではどのような視点で聴講者の方にお話をされる予定ですか。

今橋  結局、世の中に求めてることは業界が変われど一緒なんですよ。困ってることは似てるので、講演のスタンスは場所が変わっても一緒ですね。産業構造的にマインドの温度差はあると思うんですけど、マネージメントする上での悩みというのは地域に関わらず一緒なんですよ。
また、いくらGXを実践していこうと話しても、結局は人だと思うんです。社長じゃダメ、専務じゃダメ、動ける人がいるかどうかがポイントで、いれば何だってできるけどいなければ何もできないんです。だからむしろどうやってそういう人材を集めるかというセミナーの方が実は根幹なんですよね。そこを突き詰めていかないと中小企業は次にいい案件なんて来ないと思いますよ。だってそもそも存在を知られていないから、まずは知ってもらわないと。

ー まさに自発的に課題解決の道筋を探していらっしゃる人に聴講してもらいたい、ということですね。

今橋  そうですね。それはどんな人かというと、中小企業の経営者で感度の高い人もさることながら、それを見ている行政関係の人という感じがしますね。カーボンニュートラルを推進しなきゃダメなんだけど、そこまで見えてこない、そこからどうしていいかわからない、という人が今日も多かった印象です。

ー 自治体だったり、産官学のコーディネーターのような方々ですかね。
ぜひ、中部地域のそういった方に聴講していただけるよう事務局も尽力したいと思います。
本日はありがとうございました。

名古屋Factory Innovation Week特別講演

中小企業”だから”始めるカーボンニュートラル

日時:2023年10月26日(木)|10:00 ~11:10

講師:(株)今橋製作所 代表取締役 今橋 正守 氏

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