製造業の現状と未来・課題と解決事例

ものづくり大国と称される日本において、GDPの2割を占める製造業は経済を支える重要な産業の1つです。その製造業は現在、原材料価格の高騰やカーボンニュートラルへの対応、技術継承などといった問題に直面しています。

製造業の課題解決には、DX推進や新しい技術の導入などが必要不可欠です。本記事では、製造業が直面する現状と課題について触れたうえで、解決するための具体的な施策や事例について解説します。

 

製造業の現状と課題

それでは、製造業が直面する課題はどのようなものがあるのでしょうか。主に次の4点が考えられます。
 

原材料やエネルギー価格の高騰や円安の影響によるコストの増加

原材料やエネルギー価格の高騰は、製造コストを押し上げ、利益率を圧迫する要因となります。特に日本はエネルギーと原材料の多くを輸入に依存しているため、円安がさらなるコスト増加を引き起こします。その結果、製品の価格にも影響が及び、価格競争力が低下するリスクが高まります。

こうした中で、製造業者が競争力を維持するためには、生産性の向上が不可欠です。仮に、生産性向上の施策が不十分で製品価格が著しく上昇した場合、顧客がライバル企業に流れてしまうことも考えられます。価格を維持するためには、製造業者は効率的な生産プロセスを確立し、常に改善を続けることが求められます。
 

カーボンニュートラルのための設備投資

カーボンニュートラルへの設備投資は、現代の製造業にとって重要な課題です。脱炭素への取り組みは今や世界的な潮流です。国内外のサプライチェーンから外されるリスクや、投資家から投資を得られないといったリスクを避けるためにも取り組みが必須だといえます。

環境に配慮した製造プロセスの構築は、企業イメージの向上や取引先や顧客からの信頼獲得にもつながり、企業が長期的に競争力を維持するために欠かせない要素です。そのため積極的に設備投資を行い、持続可能な未来を実現することが求められています。
 

世界情勢による影響

製造業は、国際的な情勢からも影響を受けます。コロナ渦でのサプライチェーン寸断により一部の部品が調達できず、自動車メーカ―などが生産を中止せざるを得なかったのは記憶に新しいところです。ウクライナや中東情勢といった特定地域の紛争問題も、原材料やエネルギーの供給に支障をきたすことがあります。そうなった場合は、製品の生産や出荷に影響が出るケースも多いといえるでしょう。

企業は国際情勢の変動に左右されないためにも、供給元や輸送ルートを複数確保することで、サプライチェーンの柔軟性を高める必要があります。特定の国や地域で問題が発生した場合であっても、他の供給元から原材料を調達することが可能になり、安定した製造プロセスを維持できます。
 

技術継承の問題

技術継承は、多くの製造業者にとって大きな課題の1つです。高齢化が進む中で、長年にわたり重要な技術や知識を培ってきた熟練技術者が退職し、技術が失われるリスクが高まっています。仮に、技術やノウハウが失われた場合は、企業の競争力を大きく低下させ、製品の品質や生産効率に悪影響を及ぼす可能性があります。

また、継承するべき若手人材の不足によって技術継承が困難となるケースもあるでしょう。熟練技術者の持つ「見て学ぶ技術」や「勘」といった、書面やマニュアルでは表現しにくい暗黙知をどのように次世代へ伝えるかという課題も、技術継承を難しいものにしています。

 

製造業の課題を解決するためには

では、製造業が直面するこれらの課題を克服するためには、どのような解決策が必要なのでしょうか。
 

DX推進による業務効率化

デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進は、製造業の業務効率化を図る効果的な手段の1つです。DXを通じて、生産工程の自動化やデータ分析による意思決定の迅速化を実現できます。AIやIoTを用いて製造プロセスのデータを蓄積・分析すれば、これまで技術者に頼っていた(属人化していた)工程の最適化が可能になります。

たとえば、下記のような例が挙げられます。
 

  • IoTセンサーを使用して加工機械の振動や温度、加工速度などをリアルタイムで監視
  • 熟練技術者の動作や知識をAI活用によって分析し、最適な加工条件を自動で調整する
  • IoT技術を活用した生産設備の遠隔監視や予知保全を導入し、機械の稼働率を最適化。故障によるダウンタイムを最小限に抑える
     

このような自動化や最適化は、製品の品質が安定し生産性が向上するだけでなく、コスト削減や人手不足の解消にもつながります。
 

7つのムダの排除

製造業においてムダを排除することは、効率を高めるための基本です。ムダとなる要素は次の7つがあります。
 

  • 不要な工程(加工)
  • 不要な動作
  • 不要な運搬
  • 不要な待ち時間
  • 在庫の持ちすぎ
  • 製品の不良
     

ムダを徹底的に排除することで、業務の効率化が図れます。たとえば、生産ラインのレイアウトを最適化し、作業プロセスの見直しを行えば、無駄な動作や工程を削減できるでしょう。

また、AIなどを活用し、品質管理や在庫管理の精度を高めれば、過剰在庫を防いだうえで、キャッシュフローの改善や製品不良の減少につなげることができます。
 

カーボンニュートラルに向けた投資促進税制の活用

カーボンニュートラルを実現するために、投資促進税制を活用すれば、環境負荷の低い設備や技術への投資を推進することができます。

経済産業省が示す「カーボンニュートラルに向けた投資促進税制」は、「産業競争力強化法の計画認定制度に基づく生産工程等の脱炭素化と付加価値向上を両立する設備の導入に対して、最大10%の税額控除(中小企業者等の場合は最大14%)又は50%の特別償却を措置」(※)するもので、措置対象となる投資額は500億円まで。控除税額は、DX投資促進税制と合計で法人税額又は所得税額の20%までです。

うまく活用できれば、税制優遇を受けつつ、環境に優しい技術を導入することが可能です。たとえば、化合物パワー半導体や定置用リチウムイオン蓄電池などが施策の対象になります。

出典:経済産業省|「カーボンニュートラルに向けた投資促進税制」|

 

展示会に参加して新しいソリューションと出会う

最新技術やソリューションを取り入れるためには、積極的に展示会に参加し、業界のトレンドを把握することも大切です。展示会では、他の企業と意見交換を行い、新しいビジネスパートナーを見つけることができます。

以下のような展示会では、興味・関心の高いソリューションがあればその場で商談を行うことも可能です。展示会を活用することで、新しい技術を迅速に取り入れ、企業の競争力を高めることにもつながるでしょう。

スマート工場 EXPO

 

課題解決の事例

ここでは、製造業の課題解決に向けた具体的な事例をご紹介します(※)。
 

事例①社内人材をデジタル人材として育成【株式会社IHI】

【背景】
多様な製品を製造する中で、部門ごとに個別最適化された業務プロセスが進んでおり、業務の非効率化を招いていた。また、デジタル技術に精通した人材の不足も課題の1つだった。

【取組内容】
社内でデジタルスキルを持った人材を育成するため、デジタル変革に携わる人材を社内公募で募り、毎年約100人の社員にデジタルスキルの研修を実施。研修は、最新のデジタル技術を習得し、社員が自発的にデジタル化を推進できることが目的。

部門間の連携を強化するために専門部署を設置し、部門を横断したプロジェクトを推進。組織全体のデジタルリテラシー向上を目的とした研修やワークショップを開催し、全社的にデジタル化を推進している。


【成果】
デジタルスキルを持つ人材の育成によって、業務プロセスの共通化と部門間の連携が進み、業務効率が向上。社内に多様なバックグラウンドを持つ人材が集まり、新たなアイデアが生まれやすくなり、デジタル変革の推進力が高まった。
 

事例②プラットフォームを活用したリアルタイムノウハウ共有【富士通株式会社】

【背景】
製品開発から生産に至るまでのプロセスの効率化を図る必要があった。人材育成と技術革新の両方が必要。従来の製造プロセスは、部門ごとに分散管理されており、情報共有や意思決定が迅速に行えないことが課題だった。

【取組内容】
設計のデジタル化プラットフォーム「FTCP(Fujitsu Technical Computing Platform)」を構築し、製品開発プロセス全体をデジタルで統合管理。設計データの一元化を実現。

プラットフォーム内の「仮想大部屋」では、設計部門や製造部門、品質保証部門が仮想空間でデザインレビューを行えるシステムを導入。地理的に離れたチームでも迅速に意思決定ができる環境が整った。

【成果】
開発段階での手戻りが減少し、製品の品質が向上。また、各部門間の連携が強化され、製造や保守のノウハウが開発現場に蓄積されるようになったことから、プロセス全体の効率化が進んだ。

 

事例③工場IoT【トヨタ自動車株式会社】

【背景】
自動車業界におけるグローバル競争の激化と消費者ニーズの多様化に対応するため、製造現場における効率化と品質向上を目指し、デジタル技術の活用を検討。特に、現場からの迅速なフィードバックを得て、製品開発から製造に至るまでの各プロセスをスムーズに連携させることが必要だった。

【取組内容】
3D CADデータなどの既存のデジタル化データを一元管理できる情報共有基盤を構築し、「工場IoT」として活用。工場と設計・開発部門間の情報共有が強化され、製品開発から製造に至るまでの各プロセスの連携がスムーズになった。また、デジタルツインやシミュレーション技術を活用し、製品の設計段階から製造プロセスまでの工程を最適化し、効率的な生産体制を実現した。

【成果】
デジタル技術の活用によって、品質の向上や商品力の強化が図られ、設備の故障を未然に防ぎ、ダウンタイムを最小限に抑えることが可能になった。また、社員のボトムアップの取り組みが促進され、現場からのイノベーションが生まれている。

出典|経済産業省|製造業DX取組事例集|

 

まとめ

製造業は、原材料価格の高騰や環境問題への対応、技術継承など多くの課題に直面しています。そして、課題に対応するためには、デジタル技術を活用した生産プロセスの最適化や技術の継承が不可欠です。そのため、IoTやAIを活用して効率を高め、持続可能な製造を実現することが求められています。また、柔軟なサプライチェーンの構築や新しい技術を持つ企業との共創によって、競争力を強化することが重要です。

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