製造業(工場)の人手不足の原因と解決策

近年、日本の製造業は技術者の高齢化によるリタイアや若年層の製造業離れといった理由から、深刻な人手不足に直面しています。人材を確保するためには、人材育成の体制構築やIT技術の活用、労働環境や待遇の改善等が不可欠です。

本記事では、製造業の人手不足の原因に触れたうえで、効果的な解決策について解説します。
 

製造業の人手不足はどの程度深刻なのか?

製造業の人手不足は、以下の3つの理由から深刻化しています。
 

製造業への入職希望者数の低迷

製造業は他業種に比べて就業希望者が少ない状況にあります。2023年12月厚生労働省「一般職業紹介状況(令和5年12月分及び令和5年分)について」(※1)を参照すると、製造業の有効求人倍率は1.74倍であり、全業界の平均である1.27倍を大きく上回っている状況です。

この数字は、製造業の求人に対して応募者が少ないことを示しており、企業にとって人材の確保が非常に難しいことを意味しています。
 

就業者の総数減少、若年層の減少、高齢化の進行

製造業全体の就業者数が減少していることも大きな理由です。経済産業省・厚生労働省・文部科学省が公表している「2024年版 ものづくり白書」(※2)によれば、製造業の就業者数は、過去10年で147万人減少しています。製造業の就業者数自体が縮小しているといえるでしょう。

また、若年層の減少と高齢化の進行も進んでいます。製造業における34歳以下の若年就業者数は過去20年間で121万人減少しているものの、65歳以上の高齢就業者数は33万人増加しています。年齢構成の変化は、将来的に技術の継承や生産力の維持に大きな影響を与える可能性が高く、製造業全体の高齢化がより進んでいく可能性も否定できません。
 

原材料高騰による採用控え

原材料やエネルギーの高騰も製造業における人材採用に影響を与えています。アメリカを中心とする好景気によって、製造業関連の需要が高まっているにもかかわらず、原材料やエネルギー費用の上昇が製造コストを圧迫し、必要な人材を採用する余裕がない状況にあります。

企業は「需要に応えるに十分な生産体制をとりたいが、現在は採用を控えるしかない」という状態であるため、人材不足がより深刻化しています。

※1 出典|厚生労働省|「一般職業紹介状況(令和5年12月分及び令和5年分)について」


※2 出典|経済産業省 厚生労働省 文部科学省|「2024年版 ものづくり白書」

 

製造業の人手不足の原因

それでは、どのような要因が製造業の人手不足を招いているのでしょうか。大きく次の4点が考えられます。
 

技術者の高齢化によるリタイア

豊富な経験と知識を持つベテラン技術者は、企業の競争力を支える重要な戦力です。しかし製造業では、ベテラン技術者の高齢化が進んでおり、多くの人材がリタイアを迎えています。

また長年にわたって蓄積された経験や技術は、いわゆる「属人化」を招きやすく、「経験豊富なベテランしかわからない」「新人や異動してきた人にはわからない」といった事態に陥るおことがあります。後継者が育たないままベテランの技術者がリタイアしてしまうと、製品の生産に必要なスキルを持った人材が一気に不足する、という状況になってしまうのです。
 

技能労働者の減少による指導者不足

製造業における技能労働者の減少は人手不足を招く深刻な要因の1つです。技能労働者の減少は、製造現場に必要なスキルや技術力を持つ優秀な人材が減少するということだけでなく、若手を指導・育成できる人材が減少するということにもつながります。

指導者が少ない環境では、若手が必要なスキルや知識を習得する機会が限られてしまい、スキルを身につけるまでの時間も長くなります。生産に必要なスキルや知識を持った人材が十分に育たず、慢性的な人手不足の状態が続きます。
 

若年層の製造業への関心低下

近年の若年層は、デジタル技術やIT産業に強い興味を持つ人が多く、製造業を志望する人の数は減少傾向です。多くの若年層は製造業を下記のように捉える傾向が強く、これらのマイナスイメージが製造業への興味関心の低下につながっています。
 

  • 伝統的な産業で、体質が古い企業が多い
  • 長時間労働が多い
  • 手作業が中心であり、単調
  • イノベーションが進みにくい
  • 革新性に乏しい


また、製造業におけるキャリアパスや成長機会が明確に伝わりにくい点も、若年層の関心低下の原因です。技能や経験を積み、高度な専門性を身につければ、将来的には管理職や技術指導者として活躍できる可能性があります。しかし、こういったキャリアパスが企業側から十分に示されていないと、製造業は若者にとって魅力的な選択肢になりにくいといえるでしょう。
 

賃金や労働環境の問題による離職率の高さ

製造業は、入社後の一定期間や非管理職のポジションでは、他の業種に比べて賃金水準が低い傾向にあります。理由は、製造業の競争が激しく、コスト削減が優先されがちなためです。

特にITや金融などの成長産業と比較した場合、製造業は賃金水準が低く、年功序列が色濃く残っている企業も多いといえます。そのため、昇給や昇進の機会が限られていると感じている従業員もおり、モチベーションの低下や他業種への転職を検討する要因の1つとなっています。

労働環境の問題も離職を招く要因です。いわゆる3K(危険・キツイ・汚い)のイメージから製造業を敬遠し、他の業種を希望する人も少なくないでしょう。また、製造の現場では生産スケジュールに合わせて長時間労働が求められるケースもあります。残業時間が長い、休暇を取りにくいといったことからワークライフバランスが崩れるのを嫌い離職や休職する人が出ると、現場はさらに人手不足になる、という悪循環に陥ってしまうのです。
 

製造業の人手不足を解消するための解決策

それでは、製造業の人手不足を解消するためにはどのような解決策が考えられるのでしょうか。
 

人材育成の体制構築

人材育成の体制構築は有効な解決策の1つです。例として、以下のような対策が挙げられます。

【研修プログラムの実施】
新入社員に対し充実した研修プログラムを提供し、継続的なスキルアップの機会を設けましょう。また、社内でのキャリアパスを明確にすることで、従業員が自らの成長を実感できる環境を整えることも大切です。

【OJTの実施】
実際の業務を通じて、現場で必要なスキルを身につけることができるOJTの内容の見直しも大切です。動画やマニュアルの整備を行い、若年層にわかりやすい資料を作成すれば、業務の内容をスムーズに把握することができ、OJTが実施しやすくなります。

【サポート体制の構築】
メンター制度を導入する方法も効果を発揮します。経験豊富な技術者をメンターとして配置し、新人をサポートする体制を整えましょう。技術的な指導だけでなく、キャリアに関するアドバイスも提供できれば、従業員のスキル成長やモチベーション向上にも期待できます。

人材育成の体制構築を通じて、従業員の成長を支援し、キャリアパスを明確にすることで、就職志望者の増加や離職率の低下が期待できます。長期的には、人材不足の解消につながるでしょう。

IT活用・デジタル化による業務効率の改善

IT技術の活用やデジタル化によって、業務効率の改善を行うことができれば、少ない人員でも業務の遂行が可能になります。たとえば、次のような対策が考えられます。
 

  • 手作業で行っていた業務をデジタル化する
    例)生産管理システムなどの導入によって、エクセルで管理していた原価や在庫のデータ管理を自動化・デジタル化する
  • 属人化していた作業をデータ化して見える化する
    例)現場での経験や勘に頼っていた作業をAIで分析し、数値データで管理。経験値に関係なく誰でも一定レベルの業務ができるようにする
  • IoTの活用によって時間と手間のかかる作業を自動化する
    例)工場内の機器や設備をネットワークで接続。リアルタイムでデータを収集・分析し、設備の稼働状況を把握する


ITの活用とデジタル化により、業務プロセスの可視化と効率化が進むことで、限られた人材でも生産性を最大化できるようになります。少ない人員でも効率的に業務を遂行できるため、人材不足の影響を最小限に抑えることが可能です。

また、デジタル技術の導入は、ヒューマンエラーの削減や品質向上といったメリットも期待できます。効果的な人手不足対策となることに加え、企業の持続的な成長を支える重要な手段となるでしょう。

新しい技術に出会うためには、さまざまな最新サービスが展示されている展示会に足を運ぶのも一手です。参考にしてみてはいかがでしょうか。

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労働環境の改善

労働環境の改善は、従業員のエンゲージメントと定着率の向上に直結し、組織全体の生産性や士気を高めるために欠かせない要素です。労働環境の改善によって、働きやすい職場としての魅力や評判を高めることができれば、新たな人材を引きつけやすくなるため、結果的に人材不足の問題を緩和する効果が期待できます。
 

  • 長時間労働を改善する
  • 休暇を取りやすい環境を整備する
  • 従業員の多様なニーズに対応した働き方を提供する

といった対策が求められます。

また、安全で快適な作業環境の整備も不可欠です。
 

  • 高所作業や高温の場所での作業など、危険な作業を機械化する
  • 体力を要する仕事や夜勤時には十分な休憩を取らせるなど、キツイ作業の緩和に取り組む
  • 5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)を徹底し、労働環境を整備する


といったように、「3K」のイメージを払拭する具体的な取り組みを行うことが必要です。
 

賃金と福利厚生の改善

競争力のある賃金体系と充実した福利厚生は、優秀な人材を確保し、従業員のモチベーションを高めるために重要です。従業員にとって魅力的な職場環境を整備し、長期的に働き続けてもらえるような仕組みを作れば、人材不足の解消につながります。

賃金体系は、競争力のある給与水準を維持・提供することが大切です。市場の動向に応じて定期的に給与を見直しましょう。スキルや経験に応じた昇給制度を導入すれば、従業員の努力や成長が適切に評価され、キャリアアップの道が明確になります。長期的なモチベーションアップにもつながるでしょう。

福利厚生の改善は、従業員の生活の質を向上させ、企業への信頼感につながります。育児支援や介護休暇なども、家族を持つ従業員を支えるための重要な要素です。加えて、フレキシブルな勤務形態やテレワークを導入すれば、従業員のエンゲージメント向上や定着率の向上に効果を発揮します。従業員の満足度を高め、長期的な定着を促すことで人材不足対策になるといえるでしょう。
 

まとめ

製造業の人手不足は、少子高齢化や若年層の関心低下といった複雑な要因が絡んでいるものの、適切な対策を講じれば対策可能です。人材育成の強化やIT活用による効率化、労働環境と賃金の改善を行い、魅力的な職場環境を提供することが大切です。

新しい技術と出会うためには、展示会などに足を運び、専門家と相談するのも有効な方法です。最新の業界動向や技術革新を直接確認することで、自社の課題解決に役立つアイデアを得ることができます。

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